昨日も今日も、そしてきっと明後日のその先も。
同じであるという保証はどこにも無いのだということをすっかり忘れていた。
私が「鍵の森」と呼ばれているこの場所に配属になったのは入隊間も無くのことだった。
配属して真っ先に先任の(随分と前に配置換えになってしまったが…)老兵に言われた言葉は、
「子供は天敵だ」
という一言だった。
事実、好奇心や知識欲を満たすためなのか、はたまた度胸試しの一環なのか、この柵の向こうへ忍び込もうとする輩は「天敵」と称された子供たちが殆どだった。
こちらが予想もしないようなところに忍び、その小さな身体を生かしてこちらの死角を突いてくるのだから堪ったものではない。
つまり、何が言いたいかと言えば。
今現在、今し方同僚と交替して帰宅途中であった私の目の前で起こっているようなことは、滅多にお目にかかれるものではないのである。
少なくとも私の勤務中に起こったことは無く、これからもそうそう起こることではないのではなかろうかと思う。
うら若き女性が立ち入り禁止である印の柵にフックロープをかけて今にも乗り越えようとしている姿、などと言うものは。
不審者、と呼ぶには周囲への警戒心が無さ過ぎる彼女はまだコチラには気付かない様子ではあるが、勤務時間外とは言え職業柄このまま見逃すわけにもいかないであろう。
手に持っていた制帽を深く被りなおし、意識して低い声で、私は誰何の声をあげた。
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