「…君は阿呆か?」
返された言葉に思わず呆れ果て、思ったままを口にしてしまった。
しかし、考えてもみて欲しい。
・まさか、傭兵とは言え国の兵士であるはずの人物が(しかも知己である妙齢の女性が!)自ら不法侵入を試み
・よりにもよって(良く見てみれば)軍で支給されている訓練用のフックロープを使用して
・職務中である(実際には交替済みなので厳密にはそうとは言えないが、彼女の知るよしも無いであろうからこの際は置いておくとして)警備担当に声をかけられても悪びれる様子も無く
「手伝って」とくれば、私がこう返したくなるのも仕方のないことではなかろうか?
ああ、もういっそのこと見なかった振りをしてこのまま立ち去ってしまおうか…
「阿呆とは何だ!」等と喚く彼女…サン=アレジア二等兵を尻目に、俄に痛み出した気のする頭に、こめかみを指先で軽く押さえながら深いため息を一つ落とす。
「捕縛する前に言い訳を先に聞いてやる。何故不法侵入なんかをしでかそうとしている?」
大してこの森に興味があるわけでもなかろうに。
問いかけた瞬間、返ってきたのはそれまでの(阿呆発言に対する)不平不満の表情ではなく、キラリといった音でもしそうな瞳だった。